AIは野村監督の野球頭脳を持つのか? 〜AIピッチングマシンを有効活用するには

こんにちは。IT/経済ジャーナリストで投資家の渡辺です。

人工知能(AI)には、音声認識とか将棋プログラムのような、ある限られた範囲での特定の用途で使われるものと、会話するロボットなど特に範囲のない、幅広い用途が求められるものがあります。

前者を「狭いAI」、後者を「広いAI」と呼ぶ場合があります。

たとえばチェスや囲碁、将棋でAIが人間のトッププレーヤーたちを破ったりしていて、かなり高度な処理ができる段階に達しています。

それに対して、範囲が広く突発的な展開も多い「広いAI」では、けっこう精度が上がってきている分野もありますが、たとえば自動運転で事故が起きてしまう程度には、突発的事態に対応するのは難しいという側面があります。

野球の配球は閉じた世界か

編集人は野球好きなので、AIを搭載したピッチングマシンでより実戦的な練習が可能になるという記事に関心を持ちました。

参考: マー君変化球も再現可能、高校野球もAIの風ジワリ

**Yahoo!ニュース(日刊スポーツ)より

 

バッティングマシン自体の仕様としても、段階的に80〜160km/hの球速が出せることや、そこにカーブ、スライダーなど変化球も対応可能で、コースや球種を柔軟に設定できるとのこと。

当然、変化球にしても小さく曲がる、大きく曲がる、鋭く曲がる、など豊富なパターンでの練習が可能になっています。

さらにAI搭載で、対戦相手の配球データを入力すれば、マシンが配球を学習し、その傾向に沿って実戦さながらの打撃練習ができるというのは、これまでの打撃練習の範囲を大きく超えるものと言えます。

AIは野村監督の教えを理解するのか?

編集人はデータ分析に昔から関心があったので、偉大な名捕手であり、名監督であり、データ野球の先駆者である野村監督の本をよく読んでいました。

いわゆるID野球(Import Data)です(以下の最新刊はアマチュア野球向けで、けっこうお勧めです)。

高校球児に伝えたい! 配球学・リード術

ID野球を実現するには、スコアラーによる詳細な配球データの収集やそこから導かれる特定のパターンや気付き、さらにスコアラーから寄せられた一次情報に対して、監督やコーチ陣、守備の司令塔である捕手によるレビューや分析が必要です。

また、ID野球を実践する選手の意識改革、知識の向上、動機付けなど、いろいろな要素の積み重ねで、実践で活用しています(これらの全体像を理解するには以下が詳しいです)。

そのため、AI搭載のピッチングマシンで一番重要なところは、人間によるレビューや分析で出てくる傾向と対策に当たる情報を、AIがどこまでデータ解析して導出できるのかというところです。

分析した情報をレポートする機能が必要

単に自軍の打者に効果的な実戦練習の場を提供するだけでは、打者の読みの力が向上するかもしれませんが、それには個人差もあり、それだけでは効果は不十分です。

野村監督の教えでは、野球は確率のスポーツであり、どういう場面でどういうことをすると勝率が上がるのか、直接的には自軍に有利な状況を作れるのかを、選手が明示的に理解して行動に移せることが重要です。

そのため、今後の方向性としては、このピッチングマシンに搭載されているAIが、相手チームや相手バッテリーの状況毎の配球パターンや傾向を分析して導出し、それを明示的にレポートにすることが要求されます。

たとえば、今、僅差で自軍が勝っている状況で2アウト満塁、カウント2ボール、2ストライク、自軍は下位打線の左打者とします。

この状況をAIに知らせると、60%の確率でスライダーだが30%の確率で外にストレートを投げてくる、というように瞬時に過去のパターンを知らせてくれると、狙い球が絞れ、下位打線の打者でもヒットを打つ確率が上がります。

ただしある程度精度の高いアウトプットを得るには、統計的に信頼に足るだけの十分な分量のデータが必要です。

そうなると、このようなAIアドバイザーを実戦で活用するには、決まった相手と繰り返し戦うプロ野球か、大学リーグのようなところからが合理的ではないかと思います。

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