こんにちは。IT/経済ジャーナリストで投資家の渡辺です。
キャッシュレスの普及、ビッグデータによる個人や企業の信用格付の仕組み、AIを活用した瞬時での融資判断など、もはや金融テクノロジーやAIのエリアでは、日本は中国よりも周回遅れになっていると言えます。
実際にテレビの経済ニュース特集でも報道されていましたが、スマホアプリでローンを申し込むと、金融機関のAIが本人の属性、過去の取引履歴などを含むビッグデータを元に、融資の可否、貸付限度額を瞬時に判断します。
そして、申し込んでから数秒で融資がおり、即座にオンライン口座にお金が振り込まれます。
日本でも今や大手銀行の貴重な収益源となった消費者金融の世界では、最短30分で審査が、などと謳っていますが、大陸では3秒、比較にならない速さです。
AI融資に活路を見出す銀行ビジネス
数年前までは、日本国債を買っていれば年利0.8〜1%でたとえ融資先がなくても、銀行はそれなりの利益を出すことができました。
ところがゼロ金利で日本国債の運用では、ほとんど利益が出せなくなりました。
今は米国の金利が3%前後に上がってきているので、米国債を含む外債での運用も選択肢ではありますが、やはり為替リスクがある以上は、そちらも限度があります。
120円が106円まで落ちたり、ちょっと安定運用というわけには行きません。
また収益の柱の1つであった住宅ローンも、ゼロ金利の影響と過当競争で歴史的な低水準で推移しています。
企業への貸付も、優良な企業は潤沢なキャッシュを持っているので借りてくれず(「晴れの日の傘を貸して、雨の日に取り上げる」と言うことで、借りてくれません)、また起業して世の中を変えてついでに億万長者になる、なんてアニマルハート(野心)をもつ人も少ないです。
そもそも、数十年前はベンチャー企業を支援しながら育てていくという銀行マンもいましたが、すっかりマニュアルとチェックリストで機械的な処理しかしていないので、今の銀行には企業を指導して育てるスキルを持った人はほとんどいないと思われます。
ということで、こちらでの利益も期待できません。
残る収益の機会は、住宅ローン以外の貸金、特に消費者金融でしょう。
何だか、10年ちょっと前の米国のサブプライムローンが作られた背景を思い出します。
でも、リスクの低い優良な借り手がお金を借りてくれない以上、その下の層を相手にするしかないのです。
ただし利息が14%とかひどく高いので、ファイナンス的には絶対に手を出してはいけない領域ではあるのですが。
AI融資の精度を高めるには時間が必要
現在もローンの可否や限度額には、統計的な手法が用いられています。
借り手の属性や現在の資産、過去の取引履歴などを元に判断します。
たとえば、クレジットカードの審査のように、過去に支払いが滞るなどの問題を起こしていれば審査を通さないと言う判断もあるわけです。
とはいえ、ある項目は十分満たしているけど、別の項目は合格ラインに少し届かないとか、微妙な項目もあるので、そこは貸付審査の担当者が「総合的に」判断して決めることになります。
現時点でAIで判断する仕組みを作ることは、これらの項目毎のチェック作業をコンピュータに置き換えることになります。
ですから審査担当者の頭の中身を、どれだけコンピュータ処理に落とし込んでいくか、と言う従来のシステム開発でもっとも重要で難しい工程を、どれだけ確実に、正確にやれるかが勝負になるでしょう。
今後、深層学習(ディープラーニング)によるAIエンジンを取り入れることによって、審査工程を自動化できることになります。
おそらくその中で、AIエンジンが、データのさまざまな項目を検査し、「項目Aと項目Cがこのくらいのグループは、ローン返済が遅れる可能性が25%、ローン返済不能になる可能性が14%」というような判断ができるようになってくると思います。
またその学習結果を見ながら、ローン可否の基準を見直したり、システム自体にも判断の精度を高めるためのチューニングを施したり、と運用をしながら改善点をあぶり出し、適切にシステムを修正していくP-D-C-Aサイクルを回し続けていく必要があります。
最初は過渡期として、システムを開発し、その後、運用しながらシステムをチューニングする、システムの信頼性がイマイチなので、従来の人間による審査とシステムによる審査を並行稼働させる、という時期が数年続くでしょう。
すでに仕組みができていて、どんどん普及が進む中国と、これから導入して試験運用を始める日本、フィンテック(金融テクノロジー)の分野では、相当差をつけられてしまいました。
これから、支払いの仕組み、AIによる資産運用などで、中国のサービスを利用する日も近いかもしれません。
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