なぜ統計学の修士号を持つデータアナリストは使えなかったのか

こんにちは。IT/経済ジャーナリストで投資家の渡辺です。

これからの会社の経営やビジネスの成功には、データの活用が必須だという議論を毎日のように目にします。

ここでいうデータの活用とは、1)企業内にある、これまで蓄積された情報をデータとして集約する、2)適切な分析やレビューを行う、3)経営の問題点を可視化し、今後のビジネスの強化や経営改善を計画し、適切に実行していく、という活動を想定しています。

このプロセス自体は有効なものですが、いくつかの地味な前提条件を満たしている必要があります。

これまで当事者として、または取材先の実態として見聞した以下の3つの前提条件について、考えてみます。

  1. 信頼できるデータが蓄積されている
  2. 会社の全体像を理解している人間が分析をリードしている
  3. 経営がデータ分析の意味を理解し、サポートしている

1、信頼できるデータが蓄積されている

データ分析をやるには、社内に分析対象となるビジネスデータが蓄積されている必要があります。

過去の取引履歴や売買記録、属性などの入った顧客リスト、事務処理のログ、事務ミスのログ、商品の在庫記録、顧客アンケートの結果その他。

社内にはさまざまなデータや記録が残っています。

どの部署(またはサーバや部門PCなど、どのシステム)に何があるのか、どのような項目がどの程度データに記録されているのか。

まずはそこを把握しておかないといけません。

次にデータの「品質」を確認する必要があります。

漏れなく、正確に文字や数字が入力されているのか。

たとえば住所の番地を、「1丁目2番地3号」と入力してあったり、「1−2−3」だったり。

また日本語固有の問題として、半角と全角が「1−2−3」と「1-2-3」というように、混在していたり。

また氏名も名字と名前の間にスペースを入れていたり、漢字も旧字や新字があったり、特殊な漢字を簡易な漢字で代用していたり。

とにかくデータが不完全だったり不統一なのです。

そのためデータ分析の際に、本来同じ属性のものが同じグループに分類できなかったり、分析の信頼性を下げる原因になります。

そのためデータの収集だけですぐに分析作業に入れるわけでなく、データのフォーマットや表記の統一(リストをメンテして、一括置換できるようにしておきます)でデータをクリーンナップするのが実は一苦労なのです。

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併せて、各部門に連携して、データの入力ルールを社内で統一してもらう必要があります。

でも、マニュアル読まない人、読んでいるけど忘れる人、打ち間違える人、短期でバイトで来た人のルール無視な入力など、綺麗なデータが蓄積できるようになるには、長い時間とかなりの労力が掛かります。

データのクリーンナップは、データ分析の作業前に毎回付いて回る問題です。

2、会社の全体像を理解している人間が分析をリードしている

編集人が在籍していた某巨大外資系企業では、その財力にモノを言わせて、欧米の大学で修士号や博士号を持ったデータアナリストを何人も採用しました。

何度かデータ分析チームが会社のビジネスや業務処理をどうパワーアップさせて行くのかプランを開陳していましたが、役員を前に英語でプレゼンをする様子も、なかなか決まっていました。

ところが、このチームは大した成果も出せず、博士号を持つリーダーが退社し、修士号を持つシニアマネージャーも退社してしまいました。

残った人員はいちおう会社に来ていましたが、案件もなかったはずで、最後の方は何をやっているのかよく分かりませんでした。

数学やITは専門家でもセールスや業務のプロではない

一番の問題は、彼らは数学やコンピュータ科学では知識はあるのでしょうが、業務経験がなく、ビジネスをよく理解していないことでした。

分析ツールを使うにしても、取っ掛かりは素朴な疑問であったり、ちょっとしたヒラメキであったり、仮説を立てるところから始まります。

ところが現場でのビジネス経験のない彼らは、素朴な疑問を持っていないのです。

そのためブレーンストーミングということで、営業部門やマーケティング部門の担当者と何度かミーティングをしていましたが、営業担当者の話はアナログ過ぎて、データ分析になかなか結び付かないようでした。

さらに、前述のように、元データが相当汚いので、試験的にデータをいじることもできません。

文句いう暇があれば、データをクレンジングするプログラムでも作ってくれるといいのですが、それはビジネス部門の仕事だ、グローバル企業なのにまともなデータがないなんてあり得ない、レベルが低い会社だ、と文句だけ聞かされました。

当時、データ分析部のチームリーダーと仲が良かったので、時々昼飯とか行っていましたが、「それも含めて仕事なんだけど、仕事の泥臭い部分をよく分かっておらず、そのくせプライドばかり高くて仕事が進まない」とこぼしていたことを思い出します。

数学者でなくても分析はできる

データ分析というと物凄く難しいことをしているように思うかもしれませんが、普通のビジネスの現場では+-×÷の四則演算、中学から高校程度の確率・統計の数学の知識があれば、大抵のことは対応できます。

企業の研究所とか、専門の研究機関では、それなりの教育訓練を受けている必要がありますが。

それより、会社の中でそれぞれの部門にはどのような業務があるのか、どのような情報があるのか、製品やサービス、情報やお金がどこからどこへ流れているのか(社内だけでなく、顧客や取引先も含めて)、といった全体の動きを理解している人がリードしている必要があります。

また各部門の業務の中核を担っている部長から課長クラスの人間が、しっかり参画していることも重要です。

彼らはデータ分析以前に、日々の業務の中でどこが弱点だ、とかどこをどうすればもっと良くなるのに、とか意見やアイデアを持っています。

中核となるリーダーがその意見を集約し、仮説に落とし込み、そのうちの重要なところやその時点で利用できるデータで検証できるところから、データ分析を実施していくことができます。

解釈から結論を出すのは慎重に

上記のやり方で、以前から主要メンバーがうすうす気付いてはいたけど、どうにもならなかった課題に切り込んでいくことができます。

ただし、注意が必要なのは、参加者全員には自部門の利益を最大化したいというインセンティブがあることです。

つまり、全体最適化をする際に、もし自部門が損をする可能性がある場合は、最適解を支持せず、会社の利益を損なう可能性が出てくることです。

データ分析をするメリットの1つは、個々人の「意見」でなく、数値で現れている、誰が見ても客観的な「事実」をベースに考えることで、より効率よく適切に問題解決を図ることです。

たとえば、ある商品について調査したところ、「ぜひ買いたい」、「どちらかといえば買いたい」という回答が60%あった場合、「半分以上の人が買いたいと思う商品です」とポジティブに捉えることもできるし、「半分近くの人が不要と思う商品です」と否定的に捉えることもあり得ます。

 

もちろん綺麗に白黒つけられるケースの方がほとんどないのですが、適切に「解釈」すること、狭い部分的な利益でなく、会社全体の利益を考えることを徹底させる必要があり、その意味でも、広い視点を持ったリーダーがしっかりと牽引していく必要があります。

3、経営がデータ分析の意味を理解し、サポートしている

最後に、もっとも重要なことはデータ分析によって何をするのか、何を目的とするのか、どんな利益を組織にもたらすことを目指すのか、といったイメージを、経営者がしっかりと理解していることです。

そして、データ分析チームのリーダーをしっかりバックアップする必要があります。

データと格闘していると、ついつい木を見て森を見ず、という状況になってしまうこともあります。

その時、大局的な見地から「何が目的か」、「どんな利益をもたらすことを期待しているのか」を確実に分析作業者たちに伝え、目的を達成するための後押しをしてあげることは成功の必須条件となります。

さらに前述のように、複数の部門が関与する作業の中では、どうしても自部門の、ひいては自分の利益を最大化したいという誘惑が付きまといます。

実際に編集人も複数部門でのプロジェクトに参画した際に、露骨に自部門に利益誘導しようとする人がいて、そこで自部門が一方的に損する結果は避けたいと思うと対抗措置を取らざるを得ず、結果的に理想とは全然違うところに行ってしまうということがありました。

そのような時に、あくまで全体最適を実現するためにも、経営者が大局的な見地から、どうすれば会社の利益を最大化できるのか、というところに意識をフォーカスさせる必要があるのです。

まとめ

主要なビジネスデータをもれなく正確に整備して、いつでも活用できる状態にしておくことで、データを使って、経営やそれぞれのエリアでのビジネスをより効率よく回していくことが可能になってきます。

また、これらのデータ処理を自動化することで、人工知能をビジネスに導入して、大幅な合理化や効率化を図り、利益を伸ばしていくことも視野に入ってきます。

ただし、今回議論したようなポイントをクリアしない限り、人工知能によるビジネスの大幅な改善はかなり難しいです。

まずは社内の情報が適切に、正確に蓄積されていくよう、1つずつ体制を整えていくのがいいでしょう。

 

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